初めてのシャネル


憧れの人っている? 私は、ココ・シャネルが憧れ。ふふっ、今ね、彼女の伝記を読んでいるところなの。なんだかめちゃくちゃかっこいい女性!

それでシャネルの製品が欲しくなっちゃった。でも洋服もバッグも香水も、まだ今の私にはふさわしくない。無理して背伸びして身に付けたって全然似合わないと思うの。

それでも何かお洒落をしたくなって、あくまでも私の勝手なイメージなんだけど、シャネル風のファッションを休日にあれこれ試行錯誤しながらコーディネートして楽しんでた。ブラックのタートルネックに、ブラックとホワイトのストライプのジャケット、それにブラックのタイトなキルティング・スカートを合わせたら、なんとなくシャネルっぽくなったような気がした。

そして最後の仕上げは赤いマニキュア! ドラッグストアで300円くらいで買ったマニキュアを塗ってみたけど、なんだかイマイチ。私がイメージしてたのと、ちょっと違う、何かが違うの。

そしたら、そんな私の姿を見たおばあちゃんが、にっこり微笑みながら黙って差し出してくれたのは、なんとシャネルのマニキュア!

「えっ、シャネルにマニキュアなんてあったんだ!」って私は驚いた。そして「おばあちゃん、なんでシャネルの赤いマニキュアなんて持ってるの?」っておばあちゃんに尋ねたら、「おばあちゃんだって女性よ。女性がお洒落するのが何かおかしい?」だって。ごもっとも。

私は除光液でチープなマニキュアを落としてから、真っ赤なシャネルのマニキュアを左手の小指の爪にひと塗りした。


すーっと滑らかで塗りやすく、真っ赤な薔薇が爪に咲いたような鮮やかな発色、表面の質感も高級車のようにつやつやに輝いている。これは、今まで私が使ってたマニキュアとは全然違った。とびっきりの特別感。

両手の十の爪を赤く塗り終えると、おばあちゃんは「ちょっと貸しただけよ。アリスちゃんにはまだあげないから」って言って、にやりと笑った。

なんか、なんかね、あれみたい、シンデレラ! おばあちゃんの魔法で、カボチャの馬車じゃないけどシャネルのマニキュアで、私、特別な女の子になったみたいなの。今も、うっとり赤く艶やかな爪を見つめてる。学校がある朝までの、秘密の魔法。

いつかあなたに会う時にも、赤いシャネルのマニキュアを付けて行くね。おばあちゃん、また魔法をかけてくれるかな?

親愛なるあなたへ
アリスより


アリスの乙女書簡

あなたのために手紙を綴ります

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