モネの空気と時間


とっておきの日曜日の過ごし方といえば、美術館を訪ねること。あなたは美術館はお好き? 今日は夏に行われた展覧会のお話をするね。

場所は横浜美術館。「モネ それからの100年」と題する展覧会。私、モネの絵が好きだから、とても楽しみにしてたんだ。

モネと言えば『睡蓮』が有名だよね。もちろん私も睡蓮の絵を見るのがお目当てのひとつだった。でも、ロンドンの霧や煙を描いてる絵を見たりして、私はあることに気付いたの。

それはね、もしかしたらモネって固体として存在する物体そのものではなく、空気中の水分というか蒸気というか、そういう気体を描いてるんじゃないかって思った。睡蓮も水辺の絵でしょ?

帰りに購入した図録を読むと、こんなふうに書いてあった。

モネの絵画のモティーフと言えば、「睡蓮」「積みわら」などが思い浮かぶ。しかしこの画家が生涯を通じて最も執着したのは、特定の物体よりもむしろ「形なきもの」であった。風景は、大気のゆらぎ、光線の移ろいといった刹那の要素に満ちており、そこにこそ自然の本質があるとも言えよう。モネが目指したのは、その変幻の中の瞬間をキャンヴァス上に写し留めることだった。

私の言いたかったことが上手にまとめて書いてある。上の文章には「うん、うん、そうだよね!」って共感しちゃった。この気付きが、モネ展で得られた大きな収穫。

それから現代アートの画家がモネをオマージュして創作した数々の作品も観ることができたよ。私が気になった作品を少し紹介するね。

まず、ルイ・カーヌ。『Work』『彩られた空気』『WORK8』という三つの作品について。金網やグラスファイバーに絵の具が塗られていて、光を通すとそれらの影が色の付いた空気を作り出すの。まさに彩られた空気! ほら、さっきのモネの話とも繋がるよね。色彩も鮮やかで、不思議で面白い作品だった。ルイ・カーヌのこれらの作品は平面の画像ではなかなかその素晴らしさが伝わりにくいから、あなたも生で作品を鑑賞する機会があるといいのだけど。

次に、水野勝規『reflection』『photon』、これらは映像作品なの。水面が揺れ、きらきらと無数の小さな光が散乱する。微かで細かな動きがあるのに静かな印象。それは固定カメラのせいかしら? 風景を撮影しているはずなのに、抽象的な雰囲気も出ている。私は水野勝規の映像を観て、なぜかニューロンを連想したんだ。神経細胞の発火。何かが動くと、何かが生じる。例えばそれはモネの描いた蒸気だったり、水野勝規の映したきらめきだったりね。そういう時間軸のある反射を描くのに映像は適しているし、彼の作品はどこまでも静かで絵画のようだったよ。

モネ、そしてルイ・カーヌと水野勝規の作品を観て私が感じた共通項は、「air/空気、雰囲気」が描かれているということ。対象それ自体だけでなく、対象が醸し出すもの、それが表現されていると思う。

最後に、彼らは「睡蓮」をモチーフにした作品も創作していて(ルイ・カーヌ『睡蓮』、水野勝規『holography』)、もちろんこの展覧会で観ることができた。私はこれらの作品を観て、「時間」の存在を感じた。前者は微妙に異なった九枚の絵が組み合わされていて、後者は撮影時期を変えた三つの映像の合成。もちろんこの世界には時間が流れている。そしてこの画家たちはそれを変幻自在に切り貼りできるんじゃないかな。美術と言えば時間よりも空間が重視されがちだけど、時間を描ける絵もあるんだって思った。

人工的なやCGがもてはやされるこの時代に、自然を描く印象派にどんな意味があるのかなって考えたら、あの日感じた空気や時間の存在、それを描くことに何か重要な鍵が隠されているような気がするの。

ミュージアムショップでお土産に買った絵葉書を、あなたに送りたいなって思った。展覧会の雰囲気があなたに伝わるように。


アリスの乙女書簡

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